そろそろミクパについて一言言っておくか
例によってタイトルは釣りです。
去年のミクの日感謝祭と今年のミクパ。3月9日に開催されたこの2つのイベントに現地組として参加した人間として,感じたところを書いてみようと思います。
多くの人が吐露しているように,昨年のイベントと今年のイベントを比較したときに,後者に比べて前者の方がより凝った,作り込まれたステージであった……というのは事実かもしれません。ミクパで不満とされている点を何点か挙げるならば,たとえば「ステージのディスプレイが昨年度は半透明だったのに比べ,今年は背景が黒の通常のディスプレイだった」「突然CMが放映されるのみの休憩時間が30分挿入された」「メドレーの繋ぎに違和感があった」「原曲のポテンシャルを引き出せていなかった」「ニコ生のカメラワークが下手だった」などなど。
しかし,個人的にひとりのボカロファンとしてミクパに参加したときに,上記のような不満点を感じたかといえばそれはNOでした。私自身が去年のイベントと今年のイベントを比較しようと思っていなかったこともあるし*1,そもそも自身の居た場所からでは背伸びをしてやっとステージが見えるという状況だったこともあるし*2,ミクパの前半で感じていたもやもやしていた感情は,後半の「初音ミクの激唱」でステージ上のミクがその翼を羽ばたかせた瞬間に吹っ飛んでしまったからでもあります。
結局,私が今回のミクパで感じたことは,自身がVOCALOIDを好きでしょうがないということ,そして,この刺激的に富んだジャンルから離れることはまだしばらくできそうにない,ということでした。
私は思うのです。ここ数年でボカロというシーンは爆発的に拡がり,とても個人の手ではすべてを追いきれないほどの情報量を伴うようになりました。VOCALOIDというひとつのジャンルの中でも趣味が多様化してきている中で,ミクパのように,これらのジャンルすべてを包括する大きなイベントが存在することの意義は小さくありません。しかしながら,もしこのような大規模なイベントのコンセプトが肌に合わない様であれば,コンセプトの異なる別のイベントを模索することも回答のひとつであると思うのです。
In Minutiae, God Dwells.: 最大公約数 vs 最小公倍数
こちらの記事では,去年のイベントと今年のイベントの違いを「最小公倍数」と「最大公約数」というワードで表現しておられます。「最小公倍数」「最大公約数」というワードも,端的にイベントの性格(コンセプト)を表す比喩としては非常に納得できるのですが,ここではもうひとつ,ステージに立つ「主体」が誰なのか,という視点でこれらのイベントの違いを考えてみたいと思います。
2年ほど遡って,2009年8月31日に開催されたミクFES。私はこのイベントには残念ながら現地参加できなかったのですが,ニコ生の有料配信で会場の様子はチェックしていました。ミクFESは名前にこそ「ミク」と付いていますが,ミクが登場したのは最初と最後くらいで,基本的にはボカロPがそれぞれバンド演奏したり,DJしたり,あるいは半裸でパフォーマンスしたり……といった内容であったと記憶しています。ミクFESは間違いなく「ボカロP」が主体のイベントだったというのが私の考えです。
1年前の2010年3月9日に開催されたミクの日感謝祭。このイベントでは,ミクFESとは打って変わってステージの中央に巨大な半透明のディスプレイが設置され,SEGA謹製のVOCALOIDモデルがバンド演奏に合わせて踊り,ステージ上を縦横無尽に駆け回りました。このステージの近未来的な様子はニュースサイト等でも大きく話題になり,YouTubeにアップされたミクの日感謝祭の動画に世界各地から多数のコメントが投稿されたことは記憶に新しいです。その前のミクFESと比べると,このイベントの主体は明らかに「ミク」を初めとするVOCALOIDキャラクターたちでした。しかしながら,ボカロPの紹介やバンドメンバーの紹介も合間合間に挟んだ内容であったことを考慮すれば,「ミク」と「ボカロP」の両方が主体であったという言い方もできるかもしれません。
一方で今年のミクパでは,ボカロPの紹介などはカットされ,徹頭徹尾「ミク」「リン・レン」「ルカ」が前面に押し出されていました。そもそも主催の違う3つのイベントを並べて比較することはナンセンスであるのかもしれませんが,もしこれらのイベントに「流れ」を見出すのであれば,それはイベントの主体が「ボカロP」から「VOCALOID」へと移行する過程であるように思われるのです。
VOCALOIDというジャンルを統括する節目のイベントとして,どのような形が望ましいのか,ここで理想の形を提示するようなことはしません。しかしながら,もし来年開催されるであろう新たなイベントに期待するモノがあるのであれば,ファンが望んでいるイベントの形を主催側に伝えることもひとつの重要なことなのではないかと思います。
他方,イベントの主催側に一方的に要求を伝えるだけではなく,各地で開催されている様々なイベントの中から自身の趣味に合致するイベントを探し,参加してみることも大事なのではないでしょうか。小規模なイベントには大規模なイベントとはまた違った雰囲気がありますし,そこに居るのはどうせ同じような趣味を持っている人間ばかりなので,そうそう疎外感を感じることもないはずです。
ボーカロイドに関連するクラブイベントだけでも,名前を知っているところで「V_N feat. AVSS」「SUKIMONO」「VOCALOID DISCO」*3などがありますし,ライブ系のイベントや歌ってみた系のイベントを含めれば,把握しきれないほどのイベントが日々開催されています。私自身,そういったイベントに興味を持ったのは最近ですが,ミクパを機に他のイベントに足を運んでもらえるなら,それだけでもジャンル全体に対する貢献になるんじゃないか,なんて思います。
以下は余談ですが,個人的にはミクパというイベントが特別ひどかった,なんてことはないと思っています。80%の完成度をそれ以上に高めるためには,0%から80%にするのと同程度の労力が必要……という言葉があるように,イベントの完成度を100%に近付けることは並大抵の労力では叶わないでしょう。逆に言えば,昨年はミクの日感謝祭の主催であるSEGAが,完成度の残り20%を埋めるために,並大抵ではない労力を払った……ということなのかもしれません。
何よりも,現地で参加した私たちがイベントを成功だと言ってあげなきゃ,現場で頑張ってくれたスタッフさんが報われないじゃないですか。