- 作者: 石川雅之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/02/19
- メディア: コミック
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アニメ化で脚光を浴びつつある「もやしもん」の石川雅之による短編集。もやしもんを知らない人にお勧め。もやしもんを知っている人にはもっとお勧め。
短編集であるが故に、気が向いたときにストーリーを気にせず読めるのがいい。奇想天外な視点に立ったストーリーの展開がいい。そして何よりも、予想だにしないオチに何度も驚愕し、笑い転げられる娯楽性が素晴らしい。それぞれの話ごとに新鮮な驚きを得ることができる短編集という媒体が、「もやしもん」とはまた違った石川雅之の才能を垣間見せてくれる。
以下、新鮮な気持ちで「週間石川雅之」を読みたい人は閲覧注意。
第1週め. 彼女の告白
読者は三度予想を覆されるであろう、見事な三段オチ。最後のひとコマが状況を如実に物語っている。シリーズの最初に持ってくる話としては十分すぎるインパクト。酸いも甘いも経験した親は強いな、やっぱ。
第5週め. 趣味の時間
作者の脳内討論大会かと思いきや、やっぱり見事なオチが。どうでもいいけど、個人的にはジーク・肉感的ふともも派。あと扉絵の変態っぷりが素晴らしい。
第6週め. WILD BOYS BLUES
どんな人間だって、時が経てば前からは想像できないくらいに変わってしまうという話。前置きが長いけど、前置きが終わったところで既にオチてる。定年間近のオジさまたちが繰り広げる妄想大会みたいな雰囲気が秀逸。
第7週め. テレビショウ
「あれっ?すごくない?」の一言に尽きる。
第9週め. フランスの国鳥
帰る家があるというのはいいことだ。なんとも形容しがたいユルめの擬人化精神は、かの「もやしもん」にも脈々と受け継がれている。この話で出てくる『はづき』は、「もやしもん」に登場する『及川葉月』と同一人物なのかな?
第10週め. よかったね
個人的に小話オブジイヤー。今までの人生で見聞きした短編の中でも、不動の地位を確立したと言っていい。話の発端は「蛸」と「凧」の違いって言うどうしようもなく平凡な聞き間違いなんだけど、そこからの話の膨らませ方がもはや神の領域に達している。
「あれはあれでスゴいぞ!」っていう発言は第7週め『テレビショウ』のオチに酷似。あと最後のオチは「もやしもん」4巻所収の第44話『宇宙戦争』にも通じるものがある……って思ったけど、その旨「もやしもん」単行本4巻の欄外にちゃんと書いてあった。隙がない。
第11週め. バス停
1度目は朝、2度目は雨、3度目は夜のバス停で交わる人間模様。何の変哲もない話なのに、胸にくさびを打ち込まれたような、そんな印象を受ける。
結び
この人が描くキャラクターは、人間の無駄な感情とか馬鹿らしさとかを実に鮮やかに映し出す。なのに、読んでいてまったく不快じゃないのは、そこに何のバイアスもなく、ただ単純に、人をありのままに描こうとしているからだろう。
考えなければストーリーが分からないような込み入った漫画もいいけれど、こういう何も考えずに楽しめる漫画があってもいいじゃない。不思議なのは、何も考えなくても楽しめるのに、読んだ後にちゃんと心に残るものがあること。消費して霧散する使い捨てエンターテイメントとは、ちょっと違う。
もちろん、出てくる女の子やお姉さんがみんな可愛いのも重要なポイント。この人が描くキャラクターは3次元にしようとしたら破綻しそうなんだけど、それ故に2次元の媒体では絶大な魅力になっている気がする。最近の「萌えキャラ」的なデザインを否定するわけじゃないけど、こういう素朴な描き方にはどうしようもなく惹き付けられるなあ。
まあとりあえず読んでみろ。話はそれからだ。