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涼宮ハルヒの憂鬱 (シリーズ第1巻)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

友人に「涼宮ハルヒシリーズ(原作)」最新刊までを一気に購入させ、先ほどありがたくシリーズの1巻を読ませてもらった。購入した当人よりも先に。オレはオレの持つ漫画や小説・ニュース・ネタを提供し、その見返りとして友人の持つ小説・漫画を借りて読む。人間関係とは全て Give and Take だと思う。

物語を作る上で、作品の方向性を決定するのが「非日常」をいかに持ち込むか、という点であると思う。なんでもない日常の中に非日常が生まれて初めて、それは他人が読んで楽しいエンターテイメントとなる。だから、世の中のほとんどの物語には少なからず非日常的な要素が含まれている。このシリーズがヒットした理由のひとつには、その「非日常」自体をテーマに設定してしまったことが挙げられる。

誰もが昔、本気でファンタジーを望んでいた。となりのトトロを観た次の日には、家の近くにある大木の根元を探ってみたし、超能力者の物語を読んでは目を閉じてテレポーテーションしようと念じてみたりした。オレにもそういう子供時代があった。

ハルヒは普通の高校生と同程度の常識を持ち合わせながら、同時にまだ現実を飲み込めていない子供みたいに強くファンタジーを望んでいる。その裏側には、誰もが一度は感じたことのある自分の存在の小ささがあり、そして自分が特別でありたいという欲求が渦巻いている。ある意味で、ハルヒは極めて普通の人間だ。

このシリーズでは宇宙人、未来人、超能力者という最も典型的な非日常的キャラクターを登場させながら、我々一般人であるキョンを主人公におき、涼宮ハルヒの気持ち次第で世界が変わってしまうという一見何も現実と変わらない、だけども何かが決定的に違っている世界を読者に体験させる。言うなれば「セカイの在り方とは何なのか」というあまりに漠然とした哲学的な命題に、キョンがライトな語り口で嫌々ながら突っ込んでいく話だ。

ところで、このシリーズを語る上では、キャラクターの魅力も無視できない。

まず第一にキョンの性格と語り口が非常に魅力的だ。このキョンの絶妙な言い回しや、意外性を持ちながらも結構的確な比喩の虜になった人間も少なくないはずだ。次に物語の中心となるハルヒ。あまりに無鉄砲な性格で、駄目な人はとことん付き合えなさそうなタイプではあるが、オレはこのシリーズの中で2番目に魅力的なのはハルヒだと思っている(ちなみに1位はキョン)。クライマックスで見せる普段とは違う仕草のハルヒにオちた人はさぞかし多いだろう。他にも、今までありそうでなかった無口キャラの長門も一部の人々には人気を博しているし、典型的な萌えキャラである朝比奈さんも揃っていて、どんな趣味の奴が読んでもお気に入りのキャラを見つけられそうなラインナップになっている。

巻末にある解説にあるように、作者は第1巻にしてかなり大きな風呂敷を広げたといえる。シリーズは(本日発売する最新作を含めて)第9巻まで発売されているが、果たしてこの先の物語はどのように展開していくのか。3年前に起こったという情報爆発のとき、果たしてハルヒキョンはどのような行動をとっていたのか?興味は尽きない。

「我思う、故に我在り」で有名なデカルトや、夢診断のフロイト長門の発するSQL文等、知っていればニヤリとなりそうなキーワードも登場したりするので、知ったかぶり少年であるオレにとっては嬉しい。個人的に一番好きな部分は本文第7章の前半、不機嫌なハルヒと日常の素晴らしさを語るキョンの対比だ。『モラトリアムな日常』という言葉には、結構影響されたね。