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なぜ「ラブライブ!」なのか?〜あるいは劇場版・ファンミ・舞台挨拶を踏まえての感想

(注:若干の劇場版ネタバレを核心に触れない程度に含みます。)

挨拶

「μ's Fan Meeting Tour 2015 〜あなたの街でラブライブ!〜」(略してファンミ)全10会場25公演が終了しました。公演はいずれもトークパートとライブパートから構成され,トークパートではこれまでのライブでは深く聞くことが出来なかったキャスト陣の素に近いトークを生で聞くことが出来,またライブパートでは,過去のライブでしか披露されていなかった“レア”な曲の再演*1があったりと,まさにラブライブ!ファンにとっては掛け替えのない公演の数々でした。ファンミ期間中に劇場版の公開があったこともあり,ファンミの前後には全国各地で舞台挨拶も行われました。

わたしは地方を含めその内いくつかの公演・舞台挨拶*2に参加させていただきましたが,その詳細を書き始めるとこの記事の主題とは外れてしまうのでまた別の機会に……。

この記事の趣旨

なぜ『ラブライブ!』なのか?」と題しましたが,この疑問はわたしがここしばらく抱いていたわだかまりの核心にあるものでした。もともと家から出るのも億劫だったわたしが,アニメも最初の3エピソードくらいで投げ出してしまうことが多かったわたしが,ラブライブ!に限りここまでハマってしまった理由はなんなのか。新幹線や飛行機に乗ってまでμ's演じるキャストの皆さんのイベントに行きたいと思うそのキッカケはどこにあったのか。

ロゴだけで言ったら「アイドルマスター」や「ナナシス」の方がカッコイイじゃないか,と思うことがあります。絵柄だけで言ったら「デレマス」の方がよっぽどイマドキの売れ線じゃないか,と思うことがあります。楽曲だけで言えば「アイカツ!」の方が好きなんじゃないか?と思っちゃうこともあります。

いや,ディスりたいわけじゃないです。事実ラブライブ!は好きです。

しかし,実際ラブライブ!をそこまで知らない人に「なんで好きなの?」と聞かれたときに,ラブライブ!で無ければならない理由を客観的に説明するだけの結論が,自身の中で見つけられていないことに気づいてしまったのです。

個々の要素で言えば,2次元アイドルモノに限ったとしても,優れた作品がいっぱいあります。その中でわたしが楽しさを見出した作品がなぜラブライブ!だったのか?その原因をタイミングや偶然に求めることは簡単です。事実,わたしが初めて本格的に触れた2次元アイドルモノの作品はラブライブ!でしたし,そもそものキッカケはアニクラ*3で曲(僕らは今の中で)を聞いたから――程度のことでしたし,それを偶然と言ってしまえばそうなのだろうと思います。

でも,わたしは,そこに何らかの偶然以外の理由を見出したい。あわよくば,世間一般にありがちな「スクールアイドルモノ」「女の子が歌って踊る」「声優がPVと同じダンスをライブで披露する」以上の説明を提供できたらいい。そんな自己満足的な気持ちでこの記事を書き出しています。

ラブライブ!が持つ特殊性

以前ラブライブ!が他のアイドルモノと比べてどう違うのか?を説明するために,アイドルモノに共通するいくつかの性質を並べ,その差異によりラブライブ!の特殊性を明らかにしようという試みをしました。


その一例を並べると次のようになります。

  • ユニット人数 - 9人
  • 曲数 - 約100曲
  • 男キャラの有無 - ほぼ無し
  • 主な舞台 - 女子校(アイドルモノ×学園モノ
  • 曲ジャンル - 様々な年代のJ-POPの要素

特に際立っているのは,学園モノであることと,作品中から念入りに男性の存在を消し去っていることでしょう。特に後者はある意味病的とも言える徹底ぶりで,アニメ内には男オタクという存在は登場しませんし,矢澤にこの兄弟を除き,台詞のある男キャラも存在しません。主人公である高坂穂乃果の父でさえ,顔が画面内に映ることは絶対にありません。

この点に関しては,他のアイドルモノにはないラブライブ!唯一の特徴であると言えるでしょう。アイドルマスターには男オタクもプロデューサーも登場しますし,同じ学園モノの要素を持っているアイカツ!に関しても,男キャラクターは普通に登場します。

しかしながら,それだけでラブライブ!の人気の理由を説明できるかと言えば,答えはNOだと思います。何故か?男が出ないアニメを見たいなら「ゆるゆり」なり「ごちうさ」なり「のんのんびより」なりを見ればいいからです。最近は萌え系アニメもガンガンキャラソンを出しますしライブイベントもやりますからね。

ライブイベントに関して言うと,ラブライブ!だとPVと全く同じダンスステージを声優が演る,という点がよくフィーチャーされます。事実,キャストさんが長い時間を掛けて体力を消耗しながら準備されていることもあり,ライブステージには一言では言い表せない魅力があると思います。ライブステージの背後に(PVのある曲であれば)必ずPVが写されるのも珍しいポイントですね。しかし,それに近い演出がアイドルマスターでもなされていることを考えると,ラブライブ!唯一の特徴であるとは言い切れないところもあるかと思います。

体育会系と全体主義

ラブライブ!は基本的に体育会系コンテンツです。アイカツ!みたいにアイドルが崖のぼりをやらかすことこそありませんが,毎日集合してダンスレッスンをする様子は体育会系の部活そのものですし,全国大会を目指して合宿したり,ときに体を壊したり,メンバーが脱退しかけたり――というのは,スポーツをテーマにした作品の王道展開そのものですよね。

成長があり,挫折があり,挫折からの復活があり,悲願の全国大会での優勝があり,そして世代交代へ――という流れは,野球漫画やサッカー漫画で描写される体育会系の部活以外の何物でもありません。

そしてもうひとつ,ラブライブ!が体育会系であることの証左として現れるのが,物語の節々に現れる「全体主義」的な要素です。アニメ2期の中で「もう全部伝わってる。もう気持ちはひとつだよ」という台詞がありますが,こういった発言も,少し意地悪な言い方をすれば,全体主義的な要素をはらんでいると思います。

アニメ1期や2期の中では「全体」が9人のユニットだったため,そこまで癖のある演出には思われませんでしたが,劇場版で何百人もいるキャラクターたちが同じ台詞を異口同音に叫ぶシーンに,ほんの少し違和感を覚えた人はそこそこ居るんじゃないでしょうか?

わたしは以前こんなツイートをしました。


実際意味がわからないと思うんです。

オタクになるような人って昔ながらの固定概念で言えば,友達が少ない・薄暗い青春を送ってきた人だと思いますし,そういう人って体育会系とか全体主義とか嫌いな人が多いと思うんです。最近の武装されるラブライバーの方を見ているとそうでもないのかな?と思うときもありますが,少なくともわたしはそうです。

なのに,ラブライブ!が好きっていうのは自己矛盾していませんか?

一方で,新田恵海さんが舞台挨拶でこんな発言をされていました(メモなしで記憶で書いているため,だいぶ意訳が含まれている点にご留意ください)。

わたしは、劇中の彼女たちを見ながら、自分が青春時代に夢を追い掛けていたこととかを思い出します

久保ユリカさんは次のように発言されていました(同じく意訳を含みます)。

わたしには青春時代なんて言えるものはなかったし、(略)でも、ラブライブっていう作品は、そんなわたしでもまるで青春を体験したような気持ちにさせてくれる

これはわたしの勝手な解釈ですが,キラキラした青春を送ってきた人にとっては,ラブライブ!青春追体験装置として機能している一方で,いわゆる青春っぽい日々を送ることが出来なかった人にとっては,ラブライブ!青春仮想体験装置として機能しているのではないでしょうか。

そしてその根底にあるのは,「利害関係を越えた仲間と一緒に,ひとつの目標に向かって努力する学生時代」という,フィクションにおいてはありがちな,しかし現実においては早々存在し得ないステロタイプな“青春”への憧れだと思うのです。

意識的か無意識的かに関わらず,ラブライブ!は見る者が潜在的に持っているキラキラした学生時代への憧れを励起しているようにわたしには思われてなりません。更に,学園モノという舞台装置や丁寧な心理描写,そして何よりもライブシーンとして描かれる挿入歌の数々が,物語をより魅力的に見せ,視聴者が作品世界に没入するハードルを下げているのです。

野暮ったさがもたらすモノ

アイドルマスター」や「ナナシス」のロゴワークがとても洗練されている一方で,主観的ながら「ラブライブ!」のロゴには若干の野暮ったさ(ダサさと言い換えてもいい)を感じてしまいます(下図)。

http://www.lovelive-anime.jp/img/lovelive.png

野暮ったさは,曲の歌詞などにもよく表れています。たとえば,ナンバリングシングル6枚目の「Music S.T.A.R.T!!」には次のような歌詞(というかコールの類)があります。

La la la LoveLive!

もしかしなくてもめっちゃダサくないですか!!もうひとつ,2期オープニング曲の「それは僕たちの奇跡」の間奏部分に入る歌詞も挙げてみます。

Hi! Hi! 最後まで駆け抜けるよ

同様の合いの手が挿入歌の「Ki-Ra Ki-Ra Sensation!」にもあります。

Hi! Hi! 夢は夢は終わらない

ララララブライブ!ほどではないものの,やっぱりストレートすぎてダサい気がします。曲調的な面で言えば,作品内ユニットである「lily white」の曲とかはイントロの時点で笑ってしまうようなコテコテの昭和テイストの曲ばかりで,やっぱり「お洒落」「クール」などの形容詞からはほど遠い印象があります。

誤解が無いように書いておくと,別にラブライブ!にもお洒落系の曲はあります。個人的にダントツなのは「冬がくれた予感」で,これはもう「矢澤にこのラップパートがなければ単なるJ-POPじゃない?」と言いたくなるくらいのクール曲です。


ともかくここで言いたいのは,ロゴにせよ曲調にせよストーリーの展開にせよ,どこか垢抜けていない,競合作品と比べても野暮ったく感じてしまうようなポイントがラブライブ!には数多くあるということです。台詞の語尾に「ニャ」が付いたり「ニコ」が付いたりするのも00年代かよ!と突っ込みたくなるような時代錯誤っぷりです。

しかし裏を返せば,これは武器でもあります。ロゴイメージの一貫性。王道のストーリー。これ以上無く分かりやすい歌詞。コールしたときの盛り上がり。キャラクターの印象の強さ。どの要素をとってみても,パッと見で洗練されていない代わりに,記憶に残る力強さがあるとは思いませんか?

「Music S.T.A.R.T!!」に関しては特に分かりやすいのですが,これはライブでコールする楽しさを最大化するためのギミックだと言えるでしょう。楽しくコールさせられるなら歌詞がどんなにダサくなっても構わないという割り切りなわけですね。

アニメ2期の挿入歌に関しては,「Music S.T.A.R.T!!」とは若干異なる目的があるように思います。これらはおそらく,「スクールアイドルとしてのμ'sの終焉」というテーマを歌詞の中で強く印象付け,アニメ本編と曲をリンクさせることを目的としているのでしょう。先ほど例に挙げた「それは僕たちの奇跡」「Ki-Ra Ki-Ra Sensation!」の歌詞は特に強烈で,個人差はあるにせよ,たとえば5thライブのような大きなイベントで生で聞いたならば思わず涙ぐんでしまうような剥き出しのメッセージ性を放っています。

ラブライブ!とは分かりやすさと高まり,メッセージ性などを重視した結果,めちゃくちゃダサくなってしまったコンテンツ――という言い方もできるかもしれません。また,劇中の彼女たちがあくまでも高校生で,アマチュアのアイドルであるからこそ,ある種の野暮ったさ――手作り感と言い換えてもいい――が作品の端々から感じられる必要があるのだと理解することもできるでしょう。

コンテキスト厨

舞台挨拶でキャストさんが何回か,「劇場版におけるμ'sの人気が急激に上昇していく様子が,現実のラブライブ!人気の上昇具合と重なるようだ」という趣旨のことをおっしゃっています。アニメ中のμ'sは,元々ファンがひとりも居なかったところからスタートし,2期の後半では全国大会であるラブライブで優勝するまでになります。そのストーリーは,現実でμ'sのキャスト9人に起こったことをほぼそのままアニメ化したものであるとも言えるわけです。

現実のμ'sに起こったことがフィクションの中のμ'sに起こり,逆にフィクションの中のμ'sに起こったことが現実のμ'sにも起こるという相互作用がそこにはあります。

思えば,アニメ1期で1stシングル「僕らのLIVE 君とのLIFE」のPVがリメイクされたり,またアニメ2期で2ndシングル「Snow halation」のPVが同様にリメイクされ物語の中に組み込まれていったことは,アニメ化前の当時にシングルを購入し,長く応援し続けてきたファンへのご褒美のようでもありました。

アニメ2期,そして劇場版へ――という流れの中で,フィクションと現実のリンク度合いは更に増してきており,いよいよアニメ抜きで語ることも,現実のイベント抜きで語ることも出来ないような,そういうコンテンツへとラブライブ!は向かってきているように思われます。

これは完全にネタバレになってしまうため具体的には書けませんが,劇場版の中でμ'sに投げかけられた疑問が,現実のラブライブ!プロジェクトやキャスト9人に対して投げかけられている疑問と全く同じであることからも,ある意味アニメスタッフは確信犯(誤用)的にアニメのストーリーを現実に寄せてきていることが分かります。

劇場版を踏まえ,果たして現実のμ'sがどのような回答を導き出すのか。ファンミーティングツアーでそれに対する回答はありませんでしたが,おそらくはそう遠くない頃に明らかになるでしょう。

おわりに

「なぜラブライブ!なのか?」という疑問に答えるには,単に他作品と比較するだけでは物足りない,という考察を踏まえ,「青春仮想体験装置としてのラブライブ!」「洗練よりも高まり重視のコンテンツ」「現実とフィクションのリンク」という3つの視点からその魅力を言語化しようとしました。今回言及した3つの特徴が必ずしもラブライブ!だけに当てはまるとは思いませんが,これまで脳内でモヤモヤしていたラブライブ!ラブライブ!たる所以の一端を言語化することには成功したように思います。

結局のところ,ラブライブ!がこれだけの人気を得た理由は一言では書き表すことができないのだろうと思います。ストーリーが人々の青春への羨望を思い出させるから。女の子がカワイイから。洗練よりも高まりに振り切っているから。5年間のコンテキストがあるから。曲のクオリティが高いから。ライブをやってくれるから。その内いくつかは意識的に特徴づけられた要素なのだろうと思いますし,その内いくつかはまったくの偶然で成り立ったものなのでしょう。でも,そのすべての要素があったからこそ,この現状があるのだと思うのです。

6thライブの開催時期や場所もまだ明らかになっていない現状ではありますが,とりあえずはアニサマにおけるμ'sの出演を心待ちにしつつ,各キャストのソロ活動を出来る範囲で応援していけたら,と思う今日このごろです。なお,ラブライブ!東條希を演じる楠田亜衣奈さんのファーストソロミニアルバム「First Sweet Wave」はVAPさんより10月7日水曜日の発売となっております。よろしくお願いいたします。

*1:「愛は太陽じゃない?」「純愛レンズ」「ありふれた悲しみの果て」「硝子の花園」「Someday of my life」「私たちは未来の花」「ぶる〜べりぃとれいん」「after school NAVIGATORS」「Listen to my heart」「もうひとりじゃないよ」「くるりんミラクル」「にこぷり♡女子道」「なわとび」「Mermaid festa vol.2 〜Passionate」など

*2:結局全10会場中9会場には行きました

*3:アニソンオンリークラブイベント。特にライブはなく,DJがアニソンを多めに掛けるオルスタのイベント